どうも、TJです!(自己紹介はこちら)
今回ご紹介するのは、石井遼介さんが書かれた「心理的安全性のつくりかた 「心理的柔軟性」が困難を乗り越えるチームに変える」です。
本書はグロービス経営大学院とflier主催の「読者が選ぶビジネス書グランプリ2021」で、マネジメント部門グランプリに輝いたことでも話題になりました。
それではさっそく見ていきましょう!
心理的安全性とは
心理的安全性の高いチームとは「メンバー同士が健全に意見を戦わせ、生産的でよい仕事をすることに力を注げるチーム・職場のこと」です。
要するに、互いに尊重し合いながらも言いたいことを言い合って、チームのゴールに向かって最大限の力を発揮することができるチームだと言い換えられます。
言うのは簡単ですが、分かっていてもこれがなかなか難しいですよね。
では、何が心理的安全性の妨げになるのでしょうか。
心理的安全性を阻害する「対人関係のリスク」
心理的安全性という概念を打ち立てたハーバード大学教授のエイミー・C・エドモンソンによれば、「対人関係のリスク」が「健全に意見を戦わせ、生産的でよい仕事をする」ことを阻害してしまうのだそです。
対人関係のリスクとは「良かれと思って行動しても、罰を受けるかもしれない」リスクのことで、以下の4つのカテゴリから成ります。
私自身、ミーティングで後輩が言ったことがよく分かっていなくても、「まあ、そうだよね」とか言って分かったフリをしてしまうことが時々あります。笑
これはまさに「無知だと思われたくない」という対人関係のリスクを恐れての行動なのだと言えます。
心理的安全性が高い職場 ≠ ヌルい職場
ここまでで、心理的安全性が何なのかはざっくりお分かりいただけたと思います。
では、心理的安全性が高いとどんなメリットがあるのでしょうか?
それは、「チームの学習」が促進され、パフォーマンスが上がることです。
ある調査で、心理的安全性が高いチームと低いチームを比較した結果、高いチームの方が中長期で、より高いパフォーマンスを発揮していました。
その原因を探ると、心理的安全性が高いチームの方が、よりチーム内での学習が促進されていたのです。
つまり、「心理的安全性が高い職場 = 学習する職場」のことなんですね。
その職場がどんな職場なのかは、「心理的安全性」と「仕事の基準(仕事に求めるレベルの高さ)」によって、以下の4つに区分されます。
「心理的安全性が高い職場」と「ヌルい職場」を混同してしまいがちですが、これらは明確に異なります。
「ヌルい職場」は、人間関係は和気あいあいとしているが、締切も守らず、ストレッチした仕事もせず、コンフォートゾーンの中にいる職場です。
これに対して「心理的安全性が高い職場」は、仕事に対して常に妥協せず、高いレベルを求めます。
心理的安全性の4つの因子
では実際に、心理的安全性を高めていくためにはどうすればよいのでしょうか。
日本の組織では、➀話しやすさ➁助け合い➂挑戦④新奇歓迎の4つの因子がある時に、心理的安全性が感じられるということです。
ひとつずつ見ていきましょう。
話しやすさ
まず1つ目の因子である「話しやすさ」ですが、これが最も重要で、かつ他の3因子の土台になります。
この因子の例としては、以下のようなものが挙げられます。
- みんなが同じ方向を向いて「これだ!」となっている時、それでも反対意見があれば、それをシェアすることができるか?
- 「問題」や「リスク」に気づいた瞬間・感じた時に声をあげられるチームか?
- 知らないことや、わからないことがある時、それをフラットに尋ねられるか?
つまり、報告がネガティブなものであっても、隠し事なく「事実は事実として上がってくる」チームが話しやすさ因子が高いチームと言えます。
助け合い
助け合い因子の例としては、以下が挙げられます。
- 問題が起きた時、人を責めるのではなく、建設的に解決策を考える雰囲気があるか?
- チームリーダーやメンバーは、いつでも相談にのってくれるか?
- このチームは減点主義ではなく、加点主義か?
助け合いの反対は「自分の責任範囲を一人でなんとかする」ということになりますが、そうではなく、トラブル時や行き詰まった時に必要な事実を共有・相談し、支援や協力を求めることができるのが助け合い因子の高いチームです。
挑戦
挑戦因子の例としては、以下が挙げられます。
- このチームでは、チャレンジ・挑戦することが損ではなく、得なことだと思えるか?
- 前例や実績がないものでも、取り入れることができるか?
- 多少非現実的でも、面白いアイデアを思いついたら、チームに共有してみよう・やってみようと思えるか?
この因子が確保されている時、チームは正解がない中でも模索し、実験し、チャンスをつかむことができます。
「とりあえずやってみよう」だけではなく、やってみたことを振り返り、改善や撤退の判断につなげることまでを1セットとして取り組んでみましょう。
新奇歓迎
ちょっと聞きなれない言葉だと思いますが、例としては以下のような感じです。
- 役割に応じて、強みや個性を発揮することを歓迎されていると感じるか?
- 常識に囚われず、さまざまな視点やものの観方を持ち込むことが歓迎されるか?
- 目立つことも、このチームではリスクではないと思えるか?
「多様性」とも言い換えられますが、個々の才能を掛け算しながら、組織のビジョンやチームが大切にしたい方向へ向けて推進していくことが、新奇歓迎因子なのです。
「心理的柔軟なリーダーシップ」が心理的安全なチームをつくる
心理的安全性の4つの因子を説明しましたが、実際にチームを変えるためにはリーダーやメンバーの「行動」を変えなければなりません。
この「行動」の変え方については後ほど説明しますが、その土台として必要なのが「心理的柔軟性」です。
著者が慶応義塾大学と共同で実施した研究において、心理的安全性にとって、リーダーやそこに所属する一人ひとりの心理的柔軟性が重要であることが示されました。
具体的には以下のようなことです。
- リーダー、メンバーの心理的柔軟性の向上は、チームの心理的安全性を向上させる
- 特に、リーダーの心理的柔軟性による心理的安全性への影響は大きい
- リーダーが心理的柔軟だと、チームの学習が大きく促進される
つまり、「心理的柔軟なリーダーシップが心理的安全なチームをつくる」ということです
心理的柔軟性の3要素
では、「心理的柔軟性」とは何なのでしょうか。
それは、以下の3つの要素からなります。
変わらないものを受け入れる
これは、「たとえ困難な思考や感情が現れてきたとしても、それらにオープンである」ということです。
ビジネスを進めていく上で、想定外のトラブルが起きてしまうことは必ずあります。
そんな時に「仕事をしている上でトラブルは起きる。正解のない時代において、予想外のことが起きることは、単なるビジネスの前提に過ぎない。むしろそれを楽しもう。」という柔軟な姿勢でいることが「変わらないものを受け入れる」ということです。
逆に、トラブルが発生した時に「なんでこんなことが起こったんだ!」とメンバーを問い詰めたり責任を追及したりすると、チームの心理的安全性は下がってしまうので、絶対にやめましょう。
イヤな気持ちをコントロールするのではなく、受け入れ、むしろ味わうのです。
大切なことへ向かい、変えられるものに取り組む
上記で説明した「変わらないものを受け入れる」というのは、言い換えると「行動を起こす際の心理的抵抗を減らす」ための柔軟性でした。
それに対して2つ目の要素は「前に進むための推進力を与える」ための柔軟性です。
この柔軟性において重要なのは、「大切なことを明確にする」「大切なことに向けた行動の選択肢を増やす」の2点です。
「大切なこと」を明確にする
まず前者についてですが、大切なことが明確になっていない職場では、見かけの人間関係を重視して、基準の低い仕事で妥協するようになります。
例えば、「今のリソースでできそうか」「リスクはないか」「怒られずに済むか」といった思考が先に働いてしまいます。
一方で、大切なことが明確になっていると、チームメンバーや取引先にも高い水準を要求できるようになります。
言わば「大切なこと」とは、あなたが向かっていきたい方向を指し示すコンパスなのです。
個人、チーム、会社として大切なこと、これらはすべて重要です。
大切なことを決めるうえで重要なのは、社会的に正しいとされていることや、他の誰かの意向に沿うことではなく、他でもないあなたが本当のところ、何を大切にしたいかを自由に選択することです。
「大切なこと」に向けた行動の選択肢を増やす
コンパスである「大切なこと」が定まったら、あなた自身がそこに近づくための行動を取り続けましょう。
この正解のない時代に、大切なことに向けて新たな行動を試すことは「信じて、飛び込む」ようなものです。
失敗したり、傷ついたり、恥をかいたりすることがあるかもしれませんが、すぐに諦めず、長期的に行動し続けていくことが重要です。
ただし、闇雲に行動を続けるのではなく、「自分の行動、もしくはチームのとっている行動は、大切なことへ近づく行動だろうか」と修正を重ねながら、行動パターンを確立していくようにしましょう。
変えられるものと変えられないものをマインドフルに見分ける
「マインドフルに見分ける」とは、ひとことで言うと「いま、この場で進行中の出来事に気づき続けている」ということです。
これはまさに「いま、この文脈で、柔軟で適切な行動をとる」ために必要な柔軟性です。
マインドフルな気づきが不足している時は、「心ここにあらず・上の空」といった状態になっています。
そんな状態で、柔軟で適切な行動をとることは難しいですよね。
マインドフルに見分けるためには、「いまこの瞬間への気づきと集中」「物語としての私から観察者としての私へ」の2点が重要です。
「いま、この瞬間」への気づきと集中
「いま、この瞬間」への気づきと集中が欠けている時、私たちは過去の出来事を思い出し後悔したり、未来への不安に思い悩んだりしてしまいます。
私自身も本当によくこの状態に陥ってしまいます。笑
「いま、この瞬間」 に集中しようとしても、気が付くと「次のプレゼンうまくできるかな」とか「上司に突っ込まれたときうまく返せなかったな」とか余計なことをついつい考えてしまいます。
これはなぜなのか。
問題は、言語が発達した私たち人間は、あまりにも「いま、この瞬間の体験」をすることが少なく、過去と未来、言語の世界を生きてしまっているということです。
逆に、言語を持たない動物はただ世界を世界のまま見つめることができ、原理的にはいまこの瞬間の体験しかできないのです。
では、「いま、この瞬間」に集中するためにはどうすればよいか。
そのためのトレーニングとして、坐禅・マインドフルネスの実践があります。
具体的な内容は省略しますが、ポイントは「言葉の世界から距離をとること」です。
本書ではその一例として、「浮かんでくる思考、身体感覚、記憶、感情」などに対して「雑念」「ふくらみ」「さみしい」などと頭の中でラベルを貼っていく方法が紹介されています。
流派や方法論はたくさんあると思いますが、いろいろ実践してみて自分に合うものを見つけてみましょう。
「物語としての私」から「観察者としての私」へ
「物語としての私」とは、自己紹介をしてくださいと言われた時の「私」のことで、いわば自分らしさやキャラなどの「自己イメージ」のことです。
ここで大事なことは、リーダーとして自己イメージを守ることに固執するのではなく、「物語としての私」を変えてでも成果やチームを前に進めることにコミットするということです。
例えば、リーダーが「自分は優秀なマーケターで、これまでも大きな成果をあげてきた」という自分物語にこだわると、「戦略が間違っていても、成果が出るまで撤退できない」ということが起こりえます。
途中で撤退することは、「優秀なマーケター」という自己イメージを脅かすからです。
自分物語に固執している限り、心理的柔軟性が失われ、問題の原因となってしまうことを理解しましょう。
一方で、「観察者の私」とは自分の思考や感情、感覚や記憶を、他人のもののように眺めるかのように距離をとって観察することです。
すなわち、俯瞰的な視点を持つということです。
俯瞰的な視点を持つことができれば、「これは自分のキャラじゃない」とか「自分自身が損なわれる」といった感覚を受けないので、自分やチームを制約する思考から自由でいられます。
それによって柔軟な行動を促すこと、つまり行動の選択肢が増えることにつながるのです。
ここまでで、心理的安全性を高めるための土台となる「心理的柔軟性」について解説してきました。
次は、いよいよ「心理的安全なチームをつくるためにいかに行動を変えていくか」について解説していきたいと思います。
「きっかけ→行動→みかえり」が心理的安全なチームをつくる
ここまで、心理的安全性を高めるために重要なポイントを説明してきました。
繰り返しになりますが、個人やチームの「行動」を変えなければ、何も変わりません。
例えば、あなたが大事なプレゼンを目前にして、上司から「自信を持て」と言われたとします。
そんな時に「よし、自信を持とう」と「心」にフォーカスしても、残念ながらあまり状況は変わりません。
逆に、「大きな声で話そう」「良い姿勢を保とう」などの「行動」にフォーカスすると、結果的に「自信に満ち溢れたプレゼン」をすることができるのではないでしょうか。
つまり、「心」ではなく「行動」にフォーカスすることが、現実に影響を与えるのです。
4つの因子も「行動」の集積
前述した「心理的安全性の4つの因子」もそれぞれ行動に分解することができます。
例えば、「話しやすさ」という因子では、「話す」「聞く」「相槌を打つ」「報告する」「目を見て報告を聞く」「雑談する」などです。
「相槌を打つ」などの行動がチームの中で多く起きている時、「話しやすさ」因子が満たされていると考えられます。
要するに、4つの因子に紐づく「望ましい行動」を増やし、「望ましくない行動」を減らすことが、心理的安全性の構築につながるのです。
行動は「きっかけ」と「みかえり」で制御されている
本書では、「望ましい行動」を増やし、「望ましくない行動」を減らす方法として、「きっかけ→行動→みかえり」フレームワークが紹介されています。
このフレームワークでは、「きっかけ」によって「行動」が起き、「行動」の後の「みかえり」が「行動」に影響を与えるとします。
つまり、「行動」は「きっかけ」と「みかえり」によって制御されているということです。
以下はそのイメージ図になります。
例えば、冷房が効きすぎて部屋が寒いという「きっかけ」で、冷房の温度上昇ボタンを押すという「行動」をした後に、部屋が暖かくなり快適になったという「みかえり」を受けることで、次回も同じ「行動」をとる確率が上がる、という感じです。
「きっかけ」と「みかえり」で「行動」を変える
では、実際にこのフレームワークを活用して、「行動」を変えるにはどうすればいいのか。
以下の3STEPで取り組んでいきます。
「助け合い」因子を例に考えてみましょう。
STEP① 心理的安全性を高めるために増やしたい/減らしたい「行動」を決める
まずは、自分たちのチームの中で「どのような行動が起こっているか/起こっていないのか」をよく観察することから始めましょう。
その結果として、「助け合い」因子を満たすための「相談する」という「行動」が明らかに足りてないとなったら、これを増やすことに決めます。
STEP② その「行動」を増やす/減らすための「きっかけ」と「みかえり」を設計する
対象とする「行動」が決まったら、「きっかけ」と「みかえり」の設計をします。
この時、注意していただきたいのが、「きっかけ」と「みかえり」は必ずセットで考えるということです。
あなたの声掛けなどの「きっかけ」によって、メンバーは一度は行動してくれるかもしれません。
しかし、その後に適切な反応や承認をするなどの「みかえり」を提示しなければ、行動は一回きりで終わってしまいます。
「きっかけ」を与えた後に、相手をよく見て「みかえり」を提示するところまできちっとフォローアップすることを心がけましょう。
STEP③ その「きっかけ」と「みかえり」を与えるためにあなた自身がアプローチする
セットなる「きっかけ」と「みかえり」を設計したら、あとはあなたのアプローチ次第です。
例えば、「きっかけ」として部下に対して「トラブルの相談は、絶対に怒らないし、むしろトラブルを解決できるようフォローするから、すぐに教えてね」という声掛けをします。
すると、実際にトラブルが起きた際に、部下がおそるおそる相談してきてくれたとします。
これで一回目の「行動」を促せました。
その「行動」に対してあなたは約束を守ることを心がけ、決して怒らず、むしろ「教えてくれてありがとう」などと言って問題解決を手伝ってあげましょう。
そうすることで、「約束通り怒られずに助けてもらえた」という「みかえり」を提示された部下は、またトラブルがあった時にもまた相談してくれるはずです。
これを繰り返していくことで、「この人なら、ミスやトラブルがあった時に相談しよう」「このチームの中でなら、ミスやトラブルがあっても相談できる」と徐々に変化していくのです。
今回ご紹介したのはあくまで一例ですが、本書には4つの因子すべてに対する行動変容の具体例が紹介されていますので、気になる方はぜひご覧ください。
まとめ
いかがだったでしょうか。
「心理的柔軟なリーダーシップ」と「きっかけ→行動→みかえり」が、心理的安全なチームをつくることがお分かりいただけたのではないかと思います。
本書は「心理的安全性」について簡潔に要点を伝えるとともに、具体的な方法論についても丁寧に書かれているので、明日からでもすぐに実践可能な内容となっています。
他にも「言葉で心理的安全性を高める方法」など、導入事例が盛りだくさんとなっていますので、ぜひお手に取っていただければ幸いです。
また、心理的安全性が特に重要な場面である1on1について、こちらの記事にまとめてますので、ぜひ併せてご覧ください。
ではまた!