どうも、TJです!(自己紹介はこちら)
今回ご紹介するのは、一橋大学大学院国際企業戦略研究家(ICS)教授の楠木健さんが書かれた「ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件」です。
多くの事例を基に「ストーリー」という観点から、究極の競争優位をもたらす論理を解明した本書は、本格的な経営書としては異例の30万部を超えるベストセラーとなりました。
ページ数で500ページと、非常に読み応えのある本書なのですが、まさに楠木さんが語るストーリーが圧倒的に面白く、一気に読み切れる内容になっています。
今回はそんな本書の中から、特に重要なエッセンスを抽出して、分かりやすくお伝えしていきたいと思います。
それではさっそく見ていきましょう!
結論
本書のメッセージをひとことで言うと、「戦略の神髄は思わず人に話したくなるような面白いストーリーにある」ということです。
つまり、戦略を構成する要素がかみ合って、全体としてゴールに向かって動いていくイメージが動画のように見えてくる、全体の動きと流れが生き生きと浮かび上がってくる。
これが「ストーリーとしての競争戦略」です。
戦略とは何か
そもそも戦略とは何でしょうか。
その本質は「違いをつくって、つなげる」ことだと言えます。
違いというのは競合他社に対する違い(差別化ポイント)のことですが、個別の違いをバラバラに打ち出すだけでは戦略になりません。
それらがつながり、組み合わさり、相互に作用する中で長期利益が実現されます。
本書ではこの「つながり」、すなわちストーリーにフォーカスして戦略の神髄を明らかにしていきます。
競争戦略と全社戦略
また、戦略には「競争戦略」と「全社戦略」の2種類があります。
「競争戦略」とは、特定の業界、つまり競争の土俵が決まっていて、ある企業の特定の事業がその競争の土俵で他社とどう向き合うかに関わる戦略です。
したがって、競争戦略は事業戦略ともいいます。
一方で「全社戦略」とは、複数の事業分野を有する企業が、各事業間のバランスをどのように構築して、最適な事業ポートフォリオにするかを考える戦略です。
戦略を考えるときは、これらの戦略のレベルの違いを意識し、両者を混同しないことが重要です。
タイトルの通り、本書では「競争戦略」のみを扱います。
競争戦略のゴール
では、競争戦略の目指すところはどこにあるのでしょうか。
それは、「長期にわたって持続可能な利益」です。
他にも、市場シェア、成長、顧客満足、従業員満足、社会貢献、株価など、ゴールになりえそうな基準はたくさんありますが、これらは持続的な利益なくして成立しません。
例えば、市場シェアをゴールにした場合、商品の価格を半額に下げれば利益は大きく減少しますが、簡単にシェアを拡大してしまうことができてしまいます。
顧客満足に関しても、潤沢に使える資金(利益の蓄積)がなければそれを維持することは困難です。
以前、アスクルのCEOの岩田彰一郎さんにお話をうかがう機会がありました。
「第2章 競争戦略の基本論理」より引用
(中略)
当時のアスクルはまだ成長の初期段階にある企業でしたが、岩田さんは「利益こそが顧客満足の総量だ」と明言していました。
利益とはつまるところ、収入からコストを引いたものです。
子供でも分かるような単純明快な尺度であり、組織の中のさまざまな人々に浸透し、共有され、ねらうゴールとして軸がぶれません。
だからこそ、企業が一義的に追及するものとして、「利益」が有効なのです。
競争優位の源泉
競争戦略のゴールが「利益」であるとした場合に、それはどこから生まれるのでしょうか。
ひとつは「業界の競争構造」です。
つまり、世の中には利益を出しやすい業界と、利益を出しにくい業界があるということです。
本書では松井秀喜やイチローが例に挙げられていますが、彼らのような野球選手がスターになって多額の年俸を得ることができたのは「プロ野球」という業界を選んだことが大きな要因であると考えられます。
極端な話、彼らがセパタクロー業界を選んでいたら、今のような富や名声を得ることはできなかったのではないでしょうか。(セパタクロー業界のみなさま、すみません)
もうひとつの利益の源泉が「戦略」です。
戦略とは「違いをつくって、つなげる」ことだとお話ししましたが、まさにこの「違い」が利益を生み出すのです。
ここで、「どの業界を選ぶか、つまり業界の競争構造も戦略の内ではないのか」と思う方もいるかもしれませんが、本書では業界の競争構造を戦略の外にある変数とします。
なぜなら、業界の競争構造がそもそも利益の出やすい魅力的なものであれば戦略は必要ないですし、そんな魅力的な業界は滅多にないと考えるからです。
したがって、競合他社との「違い」こそが、競争優位を生み出す源泉なのです。
「違い」のつくり方
「違い」には、種類の違い(Strategic Positioning)と程度の違い(Organizational Capability)の2つのタイプがあることを覚えておきましょう。
前者はポジショニング(以下、SP)、後者は組織能力(以下、OC)のことを指します。
SPは「他社と違ったことをすること」であり、OCは「他社が簡単にまねできないやり方(ルーティン)をすること」と言えます。
イチロー選手を例に挙げると、野球というスポーツを選んだことや外野手というポジションを選んだことがSPに該当し、独自の練習ルーティンや打撃技術などがOCに該当します。
SPの戦略の本質は「いかに競争圧力を回避するか」という思想であるのに対し、OCは競争圧力を受け入れ、それに対抗しようとする戦略です。
どちらが「正しい」とか「強力な」論理だということではなく、優れた経営にはどちらも必要です。
この「違い」の違いを理解しつつ、いくつもの「違い」をつなげて、ストーリーにしていきましょう。
ここまでの話をまとめると、以下のようになります。
ストーリーとは何か
ここからは「ストーリーとは何か」について解説していきます。
戦略をストーリーとして語るということは、「個別の要素がなぜ齟齬なく連動し、全体としてなぜ事業を駆動するのか」を語るということです。
もう少し嚙み砕いて言うと、個々の打ち手である「静止画」を、因果論理で縦横につなげて「動画」にするイメージです。
この「動画」レベルでの他社との違いを作ろうという考え方です。
サッカーに例えると、どこのポジションにどういう選手を配置するかは「静止画」であり、選手たちが繰り出すパスがつながってゴールへ向かっていく流れや動きが「動画」になります。
ビジネスモデルとストーリー
ストーリーと似た言葉に「ビジネスモデル」があります。
実際、両者は多くの点で共通する部分がありますが、本書では敢えてそれらを明確に区別しています。
両者の違いを端的に示すと、ビジネスモデルが戦略の構成要素の空間的な配置形態に焦点を当てているのに対して、ストーリーは打ち手の時間的展開に注目している、ということです。
例として、Amazonのビジネスモデルと戦略ストーリーが挙げられています。
ビジネスモデルは全体の「かたち」を捉えることができますが、構成要素の因果論理が巻き起こす「流れ」や「動き」の側面を捉えにくいという性質があるため、ストーリーと区別して考える必要があります。
ストーリーは人を動かすエンジン
ストーリーの面白さは、戦略の実行にかかわる社内の人々を突き動かす最上のエンジンになります。
実行を担う人々が、自分の仕事がストーリーの中でどこを担当しており、他の人々の仕事とどう嚙み合って、成果にどうつながるのか、というストーリー全体についての実感があれば、戦略の実行にコミットすることができます。
戦略ストーリーをつくる立場にいるリーダーだけではなく、実行を担うメンバーも、仕事に向かって突き動かされるような面白いストーリーを強く求めているはずです。
ストーリーが戦略づくりを面白くする
ストーリーという視点は、何よりも戦略をつくる仕事を面白くしてくれます。
自分で心底面白いと思える、思わず周囲の人々に話したくなる。
戦略とは本来そういうものであるべきですが、設定された目標に対して、難しい顔で嫌々戦略を考えている人が多過ぎるように思います。(私自身も含め)
優れた戦略思考を身につけるために最も大切なこと、それは戦略をつくるという仕事を面白いと思えるかどうかです。
まずは面白さを知る。
結局のところ、それが戦略思考を習得するための、最も効果的で効率的なアプローチだと思います。
「第1章 戦略はストーリー」より引用
ストーリーという視点は、戦略をつくるという仕事が本来的に持っている面白さを取り戻そうとするものなのです。
ストーリーの5C
ここからは、どのようにしてストーリーを組み立てていくのかをお話しします。
ストーリーを組み立てるときに柱になるのは以下の5つ、所謂「戦略ストーリーの5C」です。
この中で、「コンセプト」と「クリティカル・コア」は特に重要なので、追って詳しくお話しするとして、それ以外の3つについて簡単に説明します。
一つ目の「競争優位」はストーリーの結論となる部分で、要するに「どうやって儲けるの?(長期利益を実現するの?)」ということです。
これに関しては「競合よりも顧客が価値を認める商品やサービスを提供して儲ける」か、「競合よりも低いコストで提供して儲けるか」のいずれかしかありません。
著者も繰り返し述べていますが、ストーリーは終わりから組み立てていくべきものなので、まずは起承転結の「結」をはっきりイメージすることが先決です。
続いて、「構成要素」は前述の「違い(SP・OC)」のことで、「一貫性」はそれらの構成要素を「いかにしてうまくつなげるか」、言うなればストーリーの「筋の良さ」です。
サッカーで例えるならば、個々のパスが「構成要素」であり、それらがどのようにして縦横につながり、シュートに至るかが「一貫性」です。
コンセプト
起承転結の「起」にあたるのがコンセプトです。
文字通り起点になる部分なので、ここでコケると「承転結」でどんなに頑張っても筋の良い話にはなりません。
コンセプトとは「顧客に対する提供価値の本質を一言で表現した言葉」で、「本当のところ、誰に何を売っているのか」ということです。
スターバックスを例に見てみましょう。
「スターバックスはコーヒーショップですね?」に対して、ハワード・シュルツさんは「いいえ、本当のところわれわれが売っているのはコーヒーではありません」と答えるでしょう。(中略)
「第4章 始まりはコンセプト」より引用
シュルツさんが構想したコンセプトは「第三の場所」(third place)というものでした。
つまり、コーヒーを売るのではなく、「ゆったりとした雰囲気の中でリラックスする」という経験なり文化なりを売るというのがスターバックスのコンセプトで、コーヒーそのものはそのための手段であるという考え方です。
こうしたコンセプトは、顧客の声を聞いた結果として出てきたものではありません。
顧客に聞いてみたところで、「こういう新しいメニューを取り入れてほしい」とか「閉店時間をもう少し遅くしてほしい」といった「ニーズ」が出てくるのが関の山です。
優れたコンセプトを構想するためには、常に「誰に」と「何を」の組み合わせを考えることが大切です。
それらを表裏一体で考えることによって「なぜ」が初めて姿を現すからです。
ごく日常の生活や仕事の中で、嬉しかったこと、面白いと思ったこと、不便を感じたこと、頭にきたこと、疑問に思ったこと、そうしたちょっとした引っかかりをやり過ごさず、その背後にある「なぜ」を考えることを習慣にする。
回り道のように見えて、これがコンセプトを構想するための最上にして最短の道だというのが私の意見です。
「第4章 始まりはコンセプト」より引用
また、コンセプトを決めるということは「誰に嫌われるか」をはっきりさせることでもあります。
ターゲットではない顧客をはっきりさせ、はっきりと嫌われてください。
誰に嫌われるかを意図することが、優れたコンセプトを描くための最も効果的な入口になります。
筋の良いストーリーをつくるためには、コンセプトと因果論理でつながらない構成要素は意識的に切り捨てるという姿勢が重要です。
裏を返せば、コンセプトは判断に迷ったり、行き詰まったときに、常に立ち戻ることができる何かでなくてはなりません。
「第7章 戦略ストーリーの骨法10カ条」より引用
そこに立ち戻れば、迷いが解消し、決断に向けて背中を押してくれるのがコンセプトです。
ちなみに、ちきりんさんが書かれた「マーケット感覚を身につけよう」でも、「その商品やサービスが顧客に対して提供している『潜在的な価値』を見極める力」の重要性が説かれています。
クリティカル・コア
戦略ストーリーの5Cの中で最も重要なのが「クリティカル・コア」で、ストーリーの優劣を決めるカギになります。
起承転結の「転」にあたる部分で、サッカーで例えるなら「キラーパス」です。
クリティカル・コアの定義は「戦略ストーリーの一貫性の基礎となり、持続的な競争優位の源泉となる中核的な構成要素」で、これを満たすために必要な条件は以下の2つです。
もう少し嚙み砕いて言うと、1は「一石で何鳥にもなる打ち手である」ということ、2はストーリーから切り離してそれだけを見ると「非合理でやるべきではないこと」のように見えるが、「ストーリーの中に位置づければ、強力な合理性の源泉になる」ということです。
ここでもスターバックスを例にとって説明します。
以下の図は、スターバックスの戦略ストーリーを可視化したものです。
結論からお伝えすると、スターバックスの戦略においては「直営方式による店舗運営」こそがクリティカル・コアであると言えます。
「直営方式」がキラーパスとなることで、「店舗の雰囲気」「出店と立地」「スタッフ」「メニュー」といった構成要素が「第三の場所」というコンセプトの実現につながっています。
「直営方式」は「フランチャイズ方式」と比べて初期コストもかかるし、リスクも大きいので、「一見非して非合理」に見えますが、ストーリー全体の中に置いてみると、その合理性が見えてきます。
このように、「一見して非合理だが、ストーリー全体の文脈に位置づけると強力な合理性を持っている」という二面性にこそ、クリティカル・コアの本質があるのです。
なぜなら、「違い」をつくっても、それが他社にすぐ模倣されてしまうものであれば、「持続的な競争優位の実現」には至らないからです。
「まねできない」のではなく、「まねしようと思わない」ような「違い」をつくることが重要です。
戦略ストーリーの「骨法10カ条」
最後に、戦略ストーリーをつくるうえで参考にすべき「骨法」をご紹介します。
ここで注意すべき点は、骨法は「パターン」ではないということです。
さてこの骨法というやつ、これはパターンではない。
「第7章 戦略ストーリーの骨法10カ条」より引用
パターンは時勢によって止揚し、あるいは変革しなければならないものだが、「骨法」は千古不易である。
つまり、骨法とは「あらゆるジャンルに共通した普遍的な原理原則」なのです。
ここでは個々の骨法についての詳細は割愛しますので、気になった方はぜひ本書を手に取ってご覧ください。
まとめ
いかがだったでしょうか。
ここまでで、「戦略とは思わず人に話したくなるようなストーリーである」ということや、戦略ストーリーをつくる上で大切なポイントについてお伝えしてきました。
本書の結びとして、著者は以下のように述べています。
戦略ストーリーにとって一番大切なこと、それはストーリーの根底に抜き差しならない切実なものがあるということです。
「第7章 戦略ストーリーの骨法10カ条」より引用
(中略)
それは「自分以外の誰かのためになる」ということだと思います。
「切実なもの」、それはつまり「世のため人のため」になることです。
自分が楽しいだけでは、スタートダッシュは効いても、決して長続きはしません。
世のため人のためと信じられることだからこそ、10年20年続く仕事として取り組めるのです。
あなたにとって「切実なもの」とは何でしょうか?
また、戦略と聞いて忘れてはならないのが、戦略の大家であるリチャード・P・ルメルトが書いた「良い戦略、悪い戦略」ですので、さらに理解を深めるために、ぜひこちらもチェックしてみてください。
ではまた!
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