どうも、TJです!(自己紹介はこちら)
今回ご紹介するのは、日本コカ・コーラ元社長の魚谷雅彦さんが書かれた「こころを動かすマーケティング―コカ・コーラのブランド価値はこうしてつくられる」です。
本書では、魚谷さんが日本コカ・コーラの上級副社長に就任してから手掛けた数々のマーケティング事例が紹介されており、小説を読むような感覚でマーケティングについて学ぶことができます。
ちなみに、具体的なマーケティング手法やフレームワークについてはほぼ触れられておらず、主にマーケティングにおいて必要不可欠な「マインド」について語られています。
今回は、その中でも特に重要な5つのポイントに絞ってご紹介していきたいと思います。
それではさっそく見ていきましょう!
顧客は見えているか
マーケティングで最も大事なこと。
それは、「お客さまがきちんと見えているか」ということです。
ただ、これが意外と難しいですよね。
魚谷さんがライオンに勤めていた時、先輩社員から次のようなことを言われたそうです。
電車に乗ったとき、昼、ランチを食べに行ったとき、休日に家族で出かけるときも、それこそ夜、眠りに就くまで徹底的に人を観察する。
「第3章 顧客は見えているか」より引用
(中略)
この人たちは、どんな人なんだろう。なぜ、こうしているんだろう。次にどうするんだろう…。
常に問題意識を持って考えろ。
消費者調査をしたり、何かのアイデアが出てきたりした時も、常にターゲットとなる顧客を観察し、さまざまな問題意識を持っているからこそ反応できるのです。
そのためにも、外に出ましょう。
オフィスで考えるのではなく、街を見ることが大切です。
また、顧客に向き合うことの大切さについては、P&Gやスマートニュースを渡り歩いた屈指のマーケター、西口一希さんが書かれた「たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング」でも語られていますので、併せてご覧ください。
現場に足を運んでいるか
新しい価値とは、どこで生み出されるものなのか。
「第4章 現場に足を運んでいるか」より引用
それは、現場です。売り場の最前線です。
(中略)
売り場の最前線で、本当にお客さまが商品を手に取り、買ってくださる。
そのためには何が必要か。
お客さまに買っていただけるだけの価値が必要になる、ということです。
またもや魚谷さんのライオン時代の話ですが、ライオンでは新製品の発売後、全国の売り場の最前線を見てくることが、マーケティング担当者のルールになっていたそうです。
そこで、どんな人が買っているか、どんな傾向があるか、売れ行きはどうか、などを確認していくのです。
日本コカ・コーラの大ヒット商品である「爽健美茶」も、現場を見てきた若い担当者の意見が大きな決断のきっかけになった例です。
その若い担当者たちは、当時、地方限定で発売されていた爽健美茶の購買状況を調査するため、自動販売機の前に3日間立ち続け、購入した人に「なぜ買うのか」「どのぐらいの頻度で買うのか」を質問したそうです。
すると、購入者の大半が若い女性で、購入理由が「キレイになれそうだから」というコンセプト通りの内容であることが分かり、その後の全国展開の決断につながっていきました。
モノが売れていく現場にこそ、マーケットの本質はあるのです。
ちなみに、ユニクロやGUを運営するファーストリテイリング代表取締役会長の柳井正さんも「経営者になるためのノート」の中で、現場に足を運ぶことの重要性を語られています。
飛び抜けた商品を提供できているか
マーケティングには飛び抜けた差別化が必要です。
ビジネスでは、つい既にある商品の類似品で勝負しようとしたり、調査から得られた「平均値」を基にした商品を作ってしまったりします。
なぜなら、その方が失敗が少ないと考えるからです。
それに対して、魚谷さんは次のように言います。
人と同じことをしていたのでは、大きな成果は得られません。
「第5章 飛び抜けた商品を提供できているか」より引用
似たような商品を出したところで、消費者からの大きな支持は得られない。
買うに足る飛び抜けた価値や意味を見出せなければ、消費者にとっての感動もありません。
「平均点」のマーケティングは失敗する、と魚谷さんは断言します。
ポジショニングとセグメンテーション
では、飛び抜けた価値を創るためにはどうすればよいか。
常に、自らの商品のポジショニング、さらにはセグメンテーションを追求していくことです。
ポジショニングの成功例として、本書では「紅茶花伝」が挙げられています。
当時の紅茶マーケットでは、「サラッとした味が好まれる」という傾向があったそうですが、敢えて真逆の「リッチな味の高級感のあるミルクティー」というコンセプトが消費者に刺さり、紅茶花伝は大ヒットしました。
みなさんご存じの「アクエリアス」は、セグメンテーションが成功した例です。
スポーツドリンク市場で後発だったアクエリアスが、あそこまでヒットした理由は、ターゲットを「スポーツをしている若い男性」に絞り込んだことでした。
まずはターゲットからの大きな支持を獲得し、やがてその指示がターゲットの外側へも広がり、家庭でも飲まれるようになっていったのです。
本当にいいものであれば、その周辺には、商品に対する理解者が確実に増えていきます。
「第5章 飛び抜けた商品を提供できているか」より引用
まずは小さな器をイメージし、その器に入れることにこだわり続ける。
そうすると、いつの間にか器から溢れていることに気づけるのです。
あまりにターゲットを絞り込むことは、一見売る対象が狭くなっていくように思えます。
しかし、それは「今日」の話です。
マーケティングとは、「明日」のために行うものなのです。
最後までやり抜いているか
マーケティングという仕事に限った話ではないですが、「簡単にあきらめない」ことが大切です。
魚谷さんが日本コカ・コーラに入社してから担当したプロジェクトも、トラブル続きの連続だったそうです。
どんなに厳しい状況になっても、もう無理かもしれないとくじけそうになっても、絶対にあきらめませんでした。
「第6章 最後までやり抜いているか」より引用
そのあきらめずに生まれた最後の一押しが、大きな成果をもたらしてくれたと思うのです。
「ジョージア 男のやすらきキャンペーン」はなぜ生まれたか
本書では、魚谷さんのあきらめない姿勢を物語るエピソードがいくつも紹介されています。
入社してすぐに担当した缶コーヒーブランド「ジョージア」では、1週間後にアメリカでのCM撮影が決まっていました。
細かな演出やBGMを担当するミュージシャン、現地スタッフや飛行機のチケットまですべてが手配済みの状況で、魚谷さんはCMの撮影をキャンセルすることを決断します。
当時、売り上げが低迷していたジョージアにおいて、予定されていたプロモーション施策では、その状況を変えられないと思ったからです。
キャンセル料は数千万円にものぼり、社内外に大きな混乱が生じましたが、残った予算と限られた時間の中で、魚谷さんはマーケティング戦略を練っていきます。
その後も、「もうダメだ」と思うようなトラブルに見舞われますが、あきらめずに向き合い続けました。
その結果、言わずと知れた「ジョージア 男のやすらぎキャンペーン」の成功に漕ぎつけ、日本中に一大ムーブメントを巻き起こしたのです。
妥協を許さないことは、マーケティング上では非常に大事なことです。
「第4章 現場に足を運んでいるか」より引用
ギリギリまで考え、こだわり抜く。
現実的な時間がある中では、最後まで妥協してはいけない。
前に言ったことと違うことを言ってもいい。
たとえ朝令暮改になったとしても、やっぱり違うと思ったら言わないといけない。
ちなみに、やり抜くことすなわちコミットメントの大切さについては、森岡毅さんが書かれた「USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか? 」の中でも語られているので、こちらもぜひ併せてご覧ください。
人の心を動かしているか
結局のところ、マーケティングとは「人の心を動かせるかどうか」に尽きます。
お客さまの心だけではなく、社内のスタッフや取引先など、いろいろな人の心を動かすことで、それが大きな原動力となっていくのです。
1人の広告マンが日本中の心を動かした話
それを物語るエピソードとして、本書では、ある広告代理店の話が紹介されています。
とあるコンペで、3社の広告代理店が1回目のプレゼンを行いました。
しかし、そのうちの1社の社内評価が芳しくなく、魚谷さんはコンペからの辞退を申し入れます。
ところが、当時その会社の次長だった担当者は諦めませんでした。
「魚谷さん、何が悪かったのか、教えてください。
もう一度、チャンスが欲しい。一週間でつくり直します。
二回目のコンペに、他の会社の半分の時間でいい。
20分でいいので、参加させてほしい」
「第7章 人の心を動かしているか」より引用
それでも魚谷さんは諦めるように促しましたが、彼は決して引き下がらなかったので、その意欲を買って、最終プレゼンに参加させることにしました。
最終プレゼン当日、他の2社の提案が終わり、「どちらを選ぼうか」とういう雰囲気になったところで、例の代理店の番です。
みんなまったく期待していなかったと思います。
ところが、プレゼンが始まると、空気が一変しました。
明らかに本気度が違っていたからです。
「第7章 人の心を動かしているか」より引用
しかも、準備期間が1週間しかなかったにもかかわらず、プランだけではなく、CMに近いビデオ映像まで用意していたのです。
コンセプトを見事なクリエイティブで表現しており、それを見た全員が高揚していました。
「これだ」という思いでした。
全員が、心を動かされていました。
「第7章 人の心を動かしているか」より引用
プレゼン終了後、3社の採点が行われ、圧倒的に高い点数が入ったのが、こ最後のプランでした。
このときに思ったのは、やはり人の心は動かせるのだ、人の心は通じるのだ、ということ。
その代理店の営業担当者は、僕たちクライアントの心も動かしたけれど、その前に、社内のスタッフの心を動かしたのでしょう。
社内で人の心を変えたからこそ、僕たちの心を変えることもできた。
これこそまさにマーケティングだ、と思いました。
「第7章 人の心を動かしているか」より引用
何を隠そう、その代理店が企画したアイデアこそ、ジョージアの「明日があるさキャンペーン」です。
吉本興業のタレントさんが総出演したコマーシャルを皮切りに、ウルフルズの「明日があるさ」の大ヒット、紅白歌合戦出場、さらにはドラマ化、映画化と、まさに社会現象と言えるほどのインパクトをもたらしました。
単なる商品プロモーションの域を超えて、日本中の心を動かしたキャンペーン誕生の裏には、知られざるドラマがあったのです。
まとめ
いかがだったでしょうか。
マーケティングにおいて「大切なこと」が何なのか、なんとなくお分かりいただけたのではないかと思います。
マーケティングとは何か。
人の行動や心理、そういうものに興味を持ち、そこに何かの新しい価値を作っていこうという思いであり、こだわり、志だと思うのです。「終章 マーケティングとは経営そのものである」より引用
人の心を動かしたい、そういう思いを持つことこそが大切であり、頭でっかちにマーケティングをとらえすぎると、マーケティングの神髄の部分には行き着くことができないと思うのです。
もちろん手法も大事ですが、マーケティングの成否を分けるのは、「新しい価値で人の心を動かしたいという思い」なのかもしれません。
とにかく、まずは外に出ましょう。現場に足を運びましょう。
↓マーケティングやブランディングの基礎知識について知りたい方は、こちらの記事も併せてご覧ください。
ではまた!